[2019/11月号]中世を駆け抜けた「風雲菊池一族」が、今よみがえる~菊池川の舟運~


                菊池川の舟運

           画・橋本真也(元菊池市地域おこし協力隊)  

           解説・堤克彦(熊本郷土史譚研究所長・文学博士)

 絵の中央に夕焼けに染まる菊池川と帆船、川下には筏が浮かぶ黄昏時の情景です。帆船は高瀬湊から遡上して深川湊で荷揚を済ませ、船頭たちが「船溜り」(深川小字名「古池」〔ふるち〕と推定)か「一本松」に係留するために誘導しています。今日の仕事も無事に終え、船主から一献が用意されているのかもしれません。

 さて一体なぜ菊池川中流域に位置する深川・赤星地域まで「菊池川舟運」は航行できたのでしょうか。不可欠なのは船の無事に往来できる河道と豊富な水量でした。当時は今日みたいに堤防がなかったので、洪水対策に川底を掘り下げていました。

 菊池川周辺の村人や舟運従事者たちが総出で定期的に、洪水時には臨時に「川浚え」をして河道を整備しました。また水源や上流域に保水力のある雑木類を繁茂させ、現在よりさらに1m~2m以上の水量を保つなどの地道な取り組みによって、はじめて平太船や筏、さらに中型帆船の遡上が可能でした。

 武光頃の様子は前号で紹介しましたが、その後「菊池川舟運」は戦国・江戸を経て明治・大正、菊池軌道の開通後も続いたようです。加藤清正は菊池川の治水事業を行い、真直ぐだった河道を、七城町の菰入(水辺公園付近)でU字形に蛇行させ、玉名ではもと伊倉近くを流れていた河道を大浜寄りへ付け替えています。

 細川藩でも江戸前期に流通機構が整備され、「菊池川舟運」はその重要さを増し、菊池周辺の「肥後米」は高嶋(現・菊池市七城町、写真1)などの「俵ころがし」から平太船に積み込み、山鹿下流の菰田の中継地まで搬送、中型帆船に積み替え高瀬湊へ、そこから大坂堂島まで大型帆船で運びました。周知の通り、大坂堂島の米相場では「肥後米」が基準米の一つで、その価格の高下により他藩産の米価も自動的に決まっていました。

 『菊池郡誌』所収の江戸後期の漢方医石渕八龍(万寿、1837~1902)の漢詩「菊池八景」の「高嶼帰舟」(高嶋に舟帰る)では、「両派長流映碧山、縈廻菊鹿二郷間、従茲貨穀通貿易、朝去扁舟暮復還」、即ち菊池・迫間両川の長い流れは青々とした鞍岳・八方岳を映し、菊池・山鹿間を縫うように流れている。高嶋(写真1)で積み込まれた菊池の特産物や米俵は山鹿の菰田(写真2)まで運ばれ、朝高嶋を出た小舟(平太船)は暮にはまた戻ってくると詠んでいます。

 『嶋屋日記』には「延宝元(1675)年七月十六日、山鹿湯町ニ川船(平太船)ニて男女廿一人程死ス。但シ、燈籠見物之帰り、俄雨ニ而川水まし、所々そん所(損所)おふく(多く)」の記事、おそらく定員オバーの「川船」が俄雨で増水した菊池川で転覆、多数の死者が出ていました。(写真3)

 『伊牟田家後年控』には「田島天満宮」の鳥居再建の際、山鹿の鍋田から切り出した阿蘇凝灰岩で拵えた鳥居のパーツを、平太船に乗せて鍋田川・菊池川を経て高嶋橋場まで搬送(写真4)、田島村人総出で長明寺坂を「雀台」(まま、小型の修羅か)を使って引き上げ、神社まで無事に運んだ記述があるなど、「菊池川舟運」は色々な物の運搬に利用されていました。(「菊高の郷土史譚」32号)

 『七城町誌』所収の明治十二(1879)年の統計では、菊池川流域の川船数は全475艘、200石以上(大型帆船)3艘、200~50石(中型帆船)112艘、50石以下(平太船)343艘、渡し船(小舟)17艘でした。菊池市村田の『菊川家文書』には、明治二十(1887)年十月、船問屋「菊屋」の平太船は、菊池からの米・麦を高瀬まで搬送、その帰り船はつぎのような品々を運んでいます。(「菊高の郷土史譚」107号)

◆文明堂常平/罫紙5枚(代金16銭5厘)・インキ2個(3銭)・紙切・茶坪・表紙・

       紙挟・葉書20枚(20銭)水筆・墨1本(3銭)油煙墨(3銭5厘)

 ◆中島屋常平/土瓶(3銭6銭)・水入れ・茶のみ茶碗・椅子2脚(48銭)・田子柄杓

        桶入れ・尺竹・槻茶・盆・火箸(2銭)

 ◆隈府郵便局/切手(10銭)◆井上文太郎/傘紙・油・酒・状袋・鉄錠(22銭)

 ◆しかた辰次郎/提灯3張(60銭)・帳面 ◆高野屋隠居/石油5合(6銭)

 ◆石橋平部/石炭・油代(6銭)・美濃紙・ランプ芯(1筋)渋引仙化・木草・

       茶1斗(1銭5厘)

写真1 

               高島橋下流の船着場

写真2

              菰田船着場旧影(年不詳)

写真3

         方保田付近の清遊(熊日新聞社『水絵にのこす山鹿』)

写真4

        菊池川を登る帆船(熊日新聞社『水絵にのこす山鹿』より)


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