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[2021年5月号] 本の広場「人新世の『資本論』」を読む


斎藤幸平氏の「人新世の『資本論』」を読む

  ~時代の読み解き方、 教えられるとらわれない読み方、自由の大切さ~ 

NK生

マルクスの名は中学校の教科書にも高校の教科書にも出ています。しかし、大学生にきけば、”マルクス・who”という反応が少なからずでるのではと思います。

中高年齢層になると、マルクスまたは資本論の名を聞いただけで逃げたい気になる人もいるようです。論語に関しては「論語知らずの論語読み」。資本論については、「資本論恐れ人の資本論知らず」というところでしょうか。


 斎藤幸平氏の「人新世の『資本論』」の第一の功績はマルクスという学者についての誤った人物像と狭い業績評価をただそうとしたこと。第二の功績はマルクスの社会に対する深い洞察と彼が書きかけた資本論は、現在の社会の混乱を解く手がかりであることを、環境問題に当てはめながら平易に説いたことです。


我々の社会では新自由主義が大手を振っています。この考え方は行き詰まる資本主義の治療方法の一つとして生まれたようですが、実際は大変な毒薬でした。治療どころか病を悪化させています。我々は広がる格差に、日々背中合わせの貧困におびえ苦しんでいます。同時に様々な既成概念の虜になっています。例えば経済は成長を続けなければならないものでしょうか。生命も資源も地球もすべて有限な中で経済だけが無限に成長を続ける、そんなことができるのでしょうか。資本論そのものは大変難解な著作です。斎藤氏はそのエキスを取り出して、我々の中に刷り込まれている様々な“常識”に対して別な見方があることを教えてくれます。


 斎藤氏は現在の環境問題をマルクスならこう考えたであろうと、彼に成り代わる心意気で書いています。というのも、マルクスは資本論は第一巻だけで、残りはエンゲルスによって完成されたもの。現在、マルクスの遺稿や書簡などを手がかりに新資本論が編集されているようで、斎藤氏の環境論もその一つの試みです。


 彼の環境論には気にかかるところがあります。彼はSDGsを順番から見るとおかしい、資本主義の変改が先だと否定しています。SDGsの課題は緊急の手当を要するものばかりです。そこは注意して読む必要があるようです。


この著作は、我々は先入観だとか偏見を捨てて読むことの大事さ、自由、或いはとらわれない目で物事を考えることが日々身の回りに起きる出来事の解決の道になることを語ってくれています。


マルクスに取って代わろうと意気込む著者は博覧強記です。この本の読み方として細部にとらわれないことが大事です。

手軽な資本論への入門書、解説書が続々と出されています。合わせて読むことで、この著作への理解も、マルクスの業績への理解も深まると思います。それほど奥があるのがマルクスであり、資本論でしょう。

また、斉藤氏がこの着作のすぐ後に出した、NHKの100分名著シリーズ“カールマルクス 資本論”もさらなる理解に役に立ちます。



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