[2021年6月号] 若い人にお勧めの本「野菊の墓」


本の広場 若い人にお薦めの本「野菊の墓」伊藤佐千夫著(明治39年)

~山口百惠(TV)「野菊の墓」 松田聖子(映画)「野菊の如き君なりき」~

                                       投稿   井藤和俊

 青春時代にぜひ読んでいただきたい本のひとつです。

 思春期の男性(政夫15歳)と女性(従妹民子17歳)の淡い恋が、周囲の大人たちの心無いうわさから、引き裂かれ、男性は都会に進学し、女性は意に反した結婚を強いられ、流産し、離縁され、恋人の男性との再開かなわず病死するという物語です。

 息を引き取った彼女の手に、政夫の写真と手紙が握られていたというくだりは涙涙です。

 「野菊の墓」の「野菊」は、文中、山を二人で歩いているさい、咲いている野菊の花を見つけ「まあ綺麗な野菊、政夫さん、私に半分おくれったら、私ほんとうに野菊が好き」「僕はもとから野菊が大好き。民さんも野菊が好き・・・・」「私なんでも野菊の生まれ変わりよ。(中略)・・」中略「政夫さん・・私野菊のようだってどうしてですか」「さアどうしてということはないけど、民さんは何がし野菊のような風だからさ」「それで政夫さんは野菊が好きだって・・・」「僕大好きさ」。これで説明の要はないでしょう。

 彼女のお墓にお参りに来て、政夫は、「この時ふっと気がついた。民さんは野菊が大変好きであったに野菊を掘ってきて植えればよかった。いやすぐ掘ってきて植えよう。こう考えてあたりを見ると、不思議に野菊が繁っている。・・・(中略)・・・民さんは野菊の中へ葬られたのだ。」(以下略)

 作者の伊藤佐千夫は、実は小説家というより、和歌を詠む歌人です。正岡子規に師事し、長塚節、斉藤茂吉らとアララギ派を形成しています。

 時代は、明治です。まだ江戸時代の家風のなごりが強く、「家」の重みが現代よりはるかに強かったことが、この小説を際立たせています。今の若い人たちには、ピンとこないかもしれません。しかし、ぜひ読んでいただきたい本、しかも短編です。

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