ほんの広場 黒い雨 井伏鱒二著
小説「黒い雨」は、井伏鱒二の著作ですが、先日7月14日広島高裁の「黒い雨」をめぐる訴訟で、原告(被爆者)が勝訴し、7月27日菅総理が最高裁への上告を断念したことで、あらためて、この小説を紹介したいと取り上げました。
小説では、原爆被災者 閑間(しずま)重松と妻シゲ子夫婦が、被爆の後遺症で体力的に仕事ができないでいると、村人たちから怠け者扱いされることから始まります。
その重松夫婦は、同居している姪矢須子が、被爆者だとのあらぬ噂で、婚期を逸していくことに、悩んでいました。
原爆投下の朝、8月6日は、重松夫婦は、広島市内で被爆したものの、姪矢須子は
その日は社用で、爆心地から遠く離れた場所に居て、直接被爆していないのです。
矢須子にまたとない縁談が舞い込んで、重松は今度こそ被爆していないことを証明して、縁談をまとめようとします。そのために、重松は、健康診断とともに、8月当時の姪矢須子の日記で証明しようとします。
しかし、日記では、矢須子は、原爆投下直後から、重松夫妻の安否確認のため、広島市内に向かい、その途中、瀬戸内海の船上で「黒い雨」を浴びていたこと、また夫婦を探して、市内を歩き回ったことが記されています。
このことを、書くべきか悩んでいるときに、矢須子は発病します。縁談も破断します。
この物語は、実話ですが、裁判では、黒い雨の被害範囲をめぐる争いなのですが、小説では、被爆の噂で、差別が深化し、被爆者が二重に苦しむことが描かれています。
これは、水俣病でも、ハンセン氏病でも、繰り返されている日本社会の病根です。
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