「ネット時代の図書館戦略」
~著者 ジョン・ポールフリー 訳 雪野あき 原書房~
菊池市立図書館も、菊池市直営の図書館として、開館5年目を迎えます。
地方の田園都市の図書館は、インターネット、デジタル化の時代にどう向き合うか、いずれ直面するその課題について、考える参考資料として、「『ネット時代の図書館戦略』 著者 ジョン・ポールフリー 訳 雪野あき 原書房 」を紹介します。
日本とアメリカの図書館事情は、レファレンスサービス(利用者の質問に答える図書館の業務)と図書司書の位置付けが大きく異なっています。
日本の地方公共図書館では、レファレンスサービスの利用は多くはありません。従って図書司書の業務は、専ら本の貸出し関係の業務に集中しています。
アメリカの図書館では、研究調査目的の資料、情報提供を求められることが多いため、図書司書には、それだけの能力が求められています。
また、図書館のデジタル化も、日本以上に進んでいます。
図書館の利用目的が、書物の情報を得ることのみであれば、 デジタル化に呑み込まれます。司書の存在も、AIに置き換わられることになるでしょう。
人々が図書館に求めるものは、一には、書架で思いがけない本に出合う歓び(セレンデイピテイ)、二つには、家庭や職場以外の【第三の場所】、情報を入手し、考え、書き、学ぶための安全で快適な場所、三つには、地域の歴史的情報の長期保存です。四つには、無料で誰でも自由に利用できることです。これらは、デジタル社会になっても、人々が図書館に求めるものです。
デジタル化社会でも、直ちに、全ての情報がデジタル化されるわけではありません。アナログで残されている情報も沢山あります。アナログ情報を必要とする人々も沢山います。またデジタル化された情報も、文書化して保存が求められるものがあります。図書館はデジタル、フイジカル(物)両方が求められるのです。
デジタル情報は無限にあります。その中から、情報を選別し、図書館でアクセスおよび保存ができるようにするには、司書の高度な能力が求められます。それを、個別の図書館で行うことは困難です。図書館が共同で、デジタル情報を処理(選別、アクセス、保存)する プラットフォームと、司書のネットワークが必要です。
では、プラットフォームとはどういうものか、それにかかわる司書に要求される能力とはどんなものか? 興味のある方は、次の「ネット時代の図書館戦略」(抜粋)にお進みください。
「ネット時代の図書館戦略」(抜粋)
~著者 ジョン・ポールフリー 訳 雪野あき 原書房~
第1章 危機 最悪の事態
われわれは出版や情報技術や学問の世界で急速な変革が起こる時代に生きている。これらの分野の変化は、アナログを基本とする物質の世界から、現代生活のほぼすべての局面で情報がより大きな役割を果たす、ますますデジタル化が進んで高度にネットワーク化された世界に移行したことで生じた。(P30)
司書にとって問題なのは、現在の情報がハイブリッドな性質を持っていることだ。
2014年現在、図書館は完全にデジタル化されているわけではないし、ほとんどの図書館はしばらくは完全デジタルの見込みはないだろう。近い将来の図書館は、圧倒的に印刷物が基本である過去の世界と、デジタル主体の未来の世界とが混じり合ったものになるはずだ。(P37)
図書館の資料に求められる性質も、ほとんどがデジタルの方向へ変わりつつある。フォーマットの変化に伴って、教育や学習や研究の方法も変化してゆく。(中略)司書はこれら教育、学習、研究の新たな方法を支える上で中心的役割を担っている。(P38)
この移行期のあいだ、司書はただちに印刷資料を排除してデジタルのみに目を向けることはできない。印刷物やほかのアナログ形式の資料が姿を消しているわけではないのだ。
(中略)情報に容易にアクセスする方法として、紙ベースのフォーマットはまだ重要なのだ。(P41,42)
主要な図書館システムは、めぼしい資料に関しては収集家というより管理人の役割を果たし続ける必要があるだろう。(中略)いまの新しい知識は大部分がはじめからデジタルで生まれる。これらのデジタル資料を保存して利用可能にするという仕事は、司書にとってなじみのないものだが、彼らは早急に学ばねばならない状況にある。(P42,43)
もっとも想像力に富んだ司書でさえ、アナログな過去の仕事を全てこなしつつ、新しいデジタルの未来まで作りだすのは不可能だ。・・・しかし解決策は存在する。それを成功させるには、図書館が目の前の課題を受け入れて、全国の図書館と協力しなければならない。(P48)
第二章 顧客 図書館利用法
2013年に実施された調査では、90%以上のアメリカ人が、地域社会で図書館が
きわめて重要な役割を果たしていると感じていた。とくにアメリカ人は、図書館は子どもへのサービスに集中して取り組むべきだと考えているようだ。(P59)
若者は現在のところ、年代別に見た場合、図書館を利用する見込みが圧倒的に高いグループだ。2011年の…調査報告によれば、16歳または17歳の高校生の72%が、過去1年以内に図書館を利用したことがあった。(中略)65歳以上で過去1年以内に図書館に訪れた人の数は半分以下(49%)だった。
若者がインターネットにアクセスする方法はこれまでより増えているにもかかわらず、・・・高速ブロードバンド接続の利用には相変わらず差が生じている。(中略)
裕福な人々は、あまり裕福でない人々より先進技術やネットワークそのものを利用できる可能性が高い、・・・。(P64)
豊かな学校や地域の生徒がインターネット接続やデジタルリテラシーについて心配することはほとんどない。しかし低所得者層のクラス、とくに地方の学区では、デジタル時代の課題は生徒やその親にとって悪夢となりうる。(P66)
図書館には、どのような社会においても情報リテラシーをサポートするという重大な役割がある。(中略)大勢の生徒たちが無料Wi-Fiを利用するために図書館に来ているのだから司書にとっては彼らを手助けする大きなチャンスなのだ。(P71)
第三章 空間 バーチャルとフイジカルの結合
成功している図書館の空間は、利用者がさまざまなフォーマットで情報を利用できるように支援するものだ。(P82)
大半の図書館は、騒がしくて気が散りがちなこの世界に必要不可欠な、黙想にふけることのできる空間を作り出している・・・図書館の閲覧室独得の雰囲気は―研究者向けであろうと一般向けであろうとー学習を促してくれる。(P83)
紙の本が目的でなくとも学生が図書館という空間へやってくるふたつめの理由は、他者から得られる支援と仲間意識である。(P84)
いままで司書は、現実の空間に組み込まれ、アイデアや知識の受け渡し行為と結びつけられたときに、もっとも効果をあげてきた。そこで、多くの図書館がバーチャル・レファレンス・サービスを試みている。この遠隔サービスは、図書館利用者がどこからでも
チャットや電子メールで司書と連絡をとることができるもので、期待が持てるサービスとされていたが、いまのところ大成功しているとは言い難い。(P85.86)
ゲームを中心にしたプログラムは、大勢の子どもたちを全国の図書館へ呼び寄せるもののひとつである。子どもたちは、“ライブラリー・オブ・ゲームズ”と呼ばれるウエブサイトを立ち上げて管理し、そこでポッドキャストを作ったり、ブログに投稿したり、ゲームのレビューを発表したりするのだ。(P94)
こうしたプログラムが成功し、若い人々のあいだで人気が高まっているのは、教育者や司書がデジタルと現実の両方の環境で、学習する者が自らの興味を追求できるように促しているからだろう。(P95)
第四章 プラットフォーム 図書館がクラウドを用いる意味とは
デジタル時代には公共の選択肢もなくてはならない。・・・司書はこのような偏りなしに、誰に対しても無料で人々と知識や情報を結びつける手助けをする。(P108)
図書館に選択の余地はなく、力を合わせて共通のデジタル基盤を築いていくほかない。
(中略)そのためには図書館が自らの役割と心得るものを大きく方向転換しなければならないのだ。(中略)活動の中心は、直接的で場所を基本としたものからネットワークへと移行しており・・・。(P110)
図書館は自らの役割を、倉庫からプラットフォームに変える必要がある。・・・
プラットフォームと表現するのは、図書館が提供する情報知識への簡単で効果的なアクセスのことだ。(P111)
プラットフォームとしての図書館は、これまでの倉庫としての図書館―のちに取り出すときのために実物を補完しておく場所―とは対照的だ。プラットフォームとしての図書館は、説得力のある発想を持った人々を集める。発想は実際のものでも仮想のものでもかまわないし、記録されたものでも、生の声でもかまわない。図書館ではたらく人は自分たちを、このプラットホームの管理者、支持者だと心得ればよい。独立した施設として単独で存在するのではなく、同じようにプラットホームとして機能する図書館同士の、大きく成長しつつあるネットワークに組み込まれているとみなせばいいのだ。(P111.112)
第五章 図書館のハッキング 未来をどう構築するか
デジタル化社会のふたつの重大なパラドックス・・・ひとつめのパラドックスは、デジタル化された情報はかってないほど利用しやすいが、その反面、保持するのがきわめて難しいということだ。(P132)
ふたつめのパラドックスは、・・・豊かな社会には情報があふれているものの、しばしば見つけづらく、解明しづらく、使いづらいということだ。(P133)
ハッキングの精神は、図書館の新しく輝かしい時代を迎えようとする司書に多くのものえをもたらしてくれる。(P135)
ハッカーの特筆すべき点は、情報システムを一度は壊して、再構築する能力にある。図書館の場合、やるべきことは、図書館が担うべき機能を解体する方法を見出し、デジタルとアナログとが混在する時代に合った機能に作りなおすことだ。(P135・136)
図書館のハッキングとは、短期的には知識を入手させる最良の方法を見つけることであり、長期的には知識を保存する最良の方法を見つけることだ。(P136)
第六章 ネットワーク 司書の人的ネットワーク
もし司書が伝統的な仕事に過度に力を注ぎ続け、実物の収蔵品を維持することだけに集中していれば、彼らも厳しい未来に直面するだろう。もし、図書館が支援を増やすことに失敗し、国と州の補助金が減っていくのを見ているだけなら、司書の仕事はなくなるはずだ。(P156)
テックマン(バージニア州アルベマール郡の教諭・司書)は、自らを行政活動家ともみなしている。(中略)避けようもない予算大幅カットの話しが動き出したときに、図書館への補助金削減をやめるよう進んで嘆願書を書いてくれる地元の図書館支援者たちの電子メールリストをテックマンは作成している。・・・自分たちの活動が地域社会のニーズとしっかり結びついている必要があり、そのためには声に出して訴えていかねばならないことを知っているのだ。(P161)
第七章 保存 文化保存のため競争せず連携を
図書館の未来は・・・文化の知識を安全に長期間守ることこそ、最優先事項と言える。図書館は、民主主義の世の中で、人々が必要な情報にアクセスするための特別な存在である。けれど同時に図書館の重要な仕事は、科学文化遺産の記録を、長期にわたって安全に保管することである。(P175)
けれども、すべての図書館がすべて同じものを保存しておく必要はない。資料の請求があればほかの図書館に頼れるという、こうした連携があれば安心である。(P184)
蔵書の量でほかの図書館と競い合うのは無意味であり、間違いだ。競争してもいいことはない。多くの資料の保管能力や、それを利用する能力を低下させるような競争はすべきではない。閲覧されることもなく、ほかの図書館で別のフォーマットでも入手できる資料をわざわざ保管するのはコストがかかるだけである。図書館は利用者のニーズに応えるために不要なコストを省けるよう互いに協力することが必要だ。そして地域の人々へのサービスの質で友好的に競いあうべきである。(P187)
第八章 教育 図書館でつながる学習者たち
学校図書館の重要な役割は、学校教師の仕事をサポートし、大学での高度な勉強や就職のための準備を子どもたちにさせることだ。・・・学校図書館とその司書には変わることのない特別な役目がある。それは、学校図書館はすべての子どもたちを支援するということだ。・・・デジタルの知識は経済力のある人間だけに限定されるべきではなく、学校図書館はそれを均等化する不可欠な役割を担っている。だが予算は削減され続け、学校図書館はいま、危機的状況だ。(P190)
しっかりした図書館のある学校と学業成績とに直接的な相関関係があることはデータに表れている。調査によると、司書が多く、開館時間の延長がある図書館を持つ学校の生徒は、支援の乏しい図書館しかない学校の生徒に比べ、英語と読解のテストで高得点を出している。(P190)
若者に情報の質を理解させるのに、司書はぴったりである。・・・情報の質を判断するこうした仕事は、・・・図書館専門職の主要な部分だった。この教育的課題には、学校司書が群を抜いて適任である。今は学校司書を削減すべきときではない。(191)
第九章 法律 著作権とプライバシーが重要である理由
著作権とプライバシー権の合理的な改正は、図書館がアナログカラ」デジタルへ移行するのに不可欠な要素である。最新の法律や政策に変わらなければ、司書が民主主義に生きる人々を支えることは難しいだろう。(P206)
出版社と電子書籍の売り手と図書館はここ数年、電子書籍の貸出をめぐって主導権争いをしてきた。(P207)
アナログ時代は本の貸出(と古本の販売)に貢献した権利制限に“権利の消尽“(ファーストセール・ドクトリン)と呼ばれるものがある。(中略)ファーストセール・ドクトリンは、著作物の複製物(コピー)の所有者となった者が”著作権者の許諾を得ることなく、販売その他の方法でそのコピーの占有を処分できる“ことを明示する。(P208)
ファーストセール・ドクトリンは、著作物がレンタルビデオ店や古本屋、音楽ストア、図書館などで流通できるために不可欠なものだ。・・・「かんたんに言えば、ファーストセールとは図書館がすることー本や資料を利用者、すなわち一般の人々に貸し出すことーをさせてくれるものだ」(P209)
電子書籍のような資料の導入により、図書館での貸出は複雑化した。(P209)
デジタル作品は、図書館や消費者に売られるのではなく、ライセンスを与えられるのが特徴的になっている。ライセンスとは、何かをしたり使用したりする許可を与える法的強制力のある契約である。(P210)
図書館はただ、デジタル資料の所有者ではなく借りてとなる。(P212)図書館が利用者に電子書籍を利用させる場合は、ライセンス条項を忠実に守ることが条件だ。(P212)
ライセンス契約は著作権法よりずっと制約が多く、交渉力をほとんど持たない図書館にとっては、非常に不都合である。(P213)
ライセンス付きの電子書籍は、現在のライセンス条項のもとでは、貸し出し目的でほかの図書館と共有することができそうもない。これらの図書館はどうやってデジタルの蔵書を増やしていくのだろう?(P214)
読者のプライバシー問題は、著作権と同様、獲得した本とライセンスを与えられた本との違いに要約される。アナログの世界では、(中略)本が行方不明になるのを防いだり、罰金を科したりするために、図書館は貸し出し者の記録を残すだろうが、そのデータの使い道は図書館が独自の基準で決められる。(P226)
デジタルの世界における、図書館と出版社あるいは作品の供給者との取り引きはもっと複雑である。(中略)出版社は市場をリードする・・・企業と連携して、図書館利用者に電子書籍を貸し出せるようにするかもしれない。・・・出版社が利用者に直接貸し出せる手段を確立し、図書館は手数料を払うだけになるかもしれない。こうした場合、司書はかって自分たちが行っていた利用者のプライバシー保護を、第三者か出版社にゆだねることになる。(P226)
第十章 結論 危機に瀕しているもの
わたしが図書館の未来について一番恐れているのは・・・民間企業がすばやく効果的に介入してきて、公共のためというより利益を得るためにだけに、こうした多くの問題に取り組むことである。彼らは業務に投入する資金も人財もはるかに多く持ち合わせている。(P236)
司書自身が情報技術の専門家と強調し、革新に向けて努力すれば、大きな利益となるだろう。この研究開発はアクセスと長期保存の新たな方法を生む出すはずだ。(P239)
現実の図書館とデジタルの図書館は共存を続けるだろう。・・・研究開発への更なる投資は、最良の図書館の世界をデジタルに変換するのに役立つかもしれない。(P239)
図書館の研究開発は、デジタル革命から得られる利益をすべての市民に保障する必要がある。拡大された研究開発がとくに注目すべきなのは、さまざまなハンデイキャップを持ち人々がデジタル資料を利用できるようにすることだろう。(P241)
ほかにも投資の拡大が必要な分野は、司書と学生の訓練・再訓練だ。図書館は専門能力の開発にあまりにも金をかけていない。司書には互いに教え合うことがたくさんある。実際、デジタルに精通した司書の大半は、どこに行ってもデジタルに精通したプロである。自分たちに期待されるものが変わってきていることを十分に意識し、学ぶことで技能に磨きをかけたいと思う司書の強い望みは、同じように訓練に対して強い義務感を持つリーダーによってかなえられるべきだろう。(P241)
編集者から
本書は、日本とアメリカの図書館事情の違いを理解する必要がありますが、それでも、
日本の公共図書館の現状について、非常に厳しい指摘になっていることを痛感します。
日米の差は、10年20年の差ではありません。それは図書館理念の違いというより、
図書司書の位置付けの違いがあると思います。アメリカの図書司書は、図書館利用者の研究調査に対応する(レファレンス)ことを求められています。その能力は大学助教授レベルを求められているのです。
アメリカの若者が図書館を利用する割合が高いのは、注目されます。日本の高校生大学生の図書館利用の少なさとの差が、日本とアメリカの国力の差、科学の差に結びついていないでしょうか?
デジタル化に対応しようとするアメリカの図書館関係者の問題意識の高さは、まだ日本では、理解できないかもしれませんが、近い将来の日本にも押し寄せる課題だと思います。
ひとつ、本書について、わからないのは、アメリカの司書の存在の重要性は理解できますが、図書館の経営側、理事者側について、全く触れられていないのは、なぜなのでしょうか?予算の獲得と執行の責任は、一義的に、経営、理事側にあると思うのですが?
日本の図書館の現状は、もちろん政府、文科省、自治体の責任によるところが大きいのですが、それを許している、気が付いていない私たち国民、住民の責任もあります。
私自身、本書に目を開かされたところです。もう一度初心に帰って、図書館について、学びなおしたいと思います。
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