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[2025年05月号]本の紹介 図書館の日本史(3)

本の紹介 図書館の日本史(3)新藤 透 


図書館の日本史
図書館の日本史

 明治時代~黎明期~

明治になって、日本が西欧文明に追いつくために、日本古来のモノは否定され、西欧のモノを取り入れることが、国全体の風潮となり、江戸期までの「文庫」「蔵書の家」など図書館的役割を果たしてきたモノが消えて行きました。

明治時代の図書館は、福沢諭吉ら西欧派遣留学組の図書館紹介により、政府主導の図書館法令整備に始まります。

明治5年政府は「書籍館」(しょじゃくかん)を開館します。誰でも閲覧できますが、貸出はできません。閲覧も有料でした。

明治12年教育令、15年文部省令、32年「図書館令」と次々と、その所管、設置、廃止の権限等が変更されてゆきました。明治30年には「帝国図書館」(現在の国会図書館の前身)開館。明治41年内務省主導で「地方改良運動」を進め、社会教育の場として図書館及びその推進役として「青年団」を組織します。明治の図書館づくりは国主導であったのです。


大正時代~公立図書館激増

大正期には、文部省が社会教育、図書館行政を主導するようになり、公立図書館数が飛躍的に増えました。(昭和11年現在公立私立図書館数4,609館)

特に町村立図書館が増えたのは、青年団が設置した小規模の通俗図書館が村立に移管されたためと思われます。

都市部では、先進的な図書館サービスを展開する公立図書館が出てきます。東京日比谷図書館は、児童室設置、閲覧料無料、レファレンスサービスを行っています。

日本図書館協会が要望していた図書館司書養成機関設立は、大正10年文部省図書館員教習所として開講します。同教習所は、幾つか転変を経て現在は筑波大学の情報学群大学院に所属しています。


昭和前期の図書館~国家統制~

昭和に入ると、社会主義思想が知識人層に浸透し、政府は治安維持法を制定して、取り締まりを強化します。政府は図書館を天皇制イデオロギーの普及の場として活用を図りますが、戦況の悪化とともに、蔵書の疎開などにより、図書館は閉店状態になりました。



昭和戦後期~市民の図書館~

GHQは、図書館を管轄する民間情報教育局(CIE)を設立し、公共図書館行政を監督しました。昭和21年教育使節団の図書館改革勧告がなされ、CIE図書館をモデルとして全国各地に設立し、図書館サービスを開始します。(人口20万以上23都市)CIE図書館は無料サービス、開架式で、戦後の図書館はこれを学びました。

昭和25年図書館法が制定され、図書館奉仕、公共図書館無料原則、図書館協議会制度、図書館専門職員制度など今も引き継がれています。また、開架式、館外貸し出し、移動図書館、

レファレンスなど新しいサービスが始まりましたが、戦後間もなくのこともあり、図書館は主に受験生の勉強の場として利用されていました。

 昭和38年「中小都市における公共図書館の運営」(略称 中小レポート)が、図書館協会より発表、出版され、知的自由がいかに大事であり、それを守る図書館が重要であることを私的しています。「中小レポート」作成を指導した有山氏が東京都日野市市長となり、移動図書館、個人貸出、児童サービスに尽力し、全国的に注目されました。その成功を受けて

昭和45年「市民の図書館」が出版されました。

<公共図書館はあらゆる人々にサービスする。年齢、信条、職業などによってサービスに差があってはならない。公共図書館は利用者が求める資料は原則としてどのようなものでも提供する>ことがうたわれています。

図書館利用者が大幅に伸び、2015年公共図書館数約3,300館、個人貸出冊数70万冊に達しています。


あとがき

本書はここで終わっています。

しかし、図書館をめぐる現在の状況は、かなり厳しいものがあります。

「市民の図書館」で切り開かれた図書館の現状が、バブル崩壊以降、自治体の財政難、学生若者の読書離れ、書店本屋の廃業、出版社撤退、総合雑誌廃刊、新聞購読者激減という図書館の冬の時代を迎えています。全国的には、図書館の統廃合、図書館職員・司書の定数減、非正規化、学校司書の複数校かけもちなど、厳しい状況があります。

現場の図書館職員は、図書の貸出業務に加えて、各種のイベント、講習を受け持ち、住民サービスに努めています。

このことについては、機会をあらためて、ご紹介します。

私たち図書館利用者、市民も、あらためて読書の価値を見直し、スマートフォンのSNSの

誹謗中傷にさらされている若者学生児童たちに、読書・図書館へ向かう切っ掛けを、図書館職員とともに、作り出す努力が必要ではないでしょうか。

                            文責 井藤和俊




 
 
 

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