[2019/11月号]投稿 書評「同調圧力」(角川新書)

 ~みんなが空気を読んで居心地よく生きる結果 目先にある危機~

  望月衣塑子、前川喜平、マーテイン・ファクラー共著「同調圧力」 

 

 著者の望月氏は東京新聞の記者で、ノープロブレムおじさん(こと菅義偉官房 長官)との記者会見で激しくやり合っている注目の人です。この著では話題にな った官房長官とのやりとりの実際と記者クラブの様子、東京新聞の姿勢がリアル に書かれています。著者の主張は記者が、いかに自分の考え方をきちんと持ち、 既成のしがらみから脱し、果敢に対象に攻め入るか、早い話、取材対象と戦う姿 勢です。彼女の読者へのメッセージ: 「たとえ周囲からいろいろなことを言わ れたとしても、今の自分がどのように行動していけばいいのかを、自分自身の内 なる声に耳を澄ませながら探し当てていく。一人ひとりが立ち向かいたいと思う 勇気、貫きたい正義というものをもっているはずです。最終的には他人がどう言 うか、どう評価するかでなく、自分白身が一番納得できるやり方を見つけてほし いですね」  

 前川氏は元文部事務次官。安倍政権と気脈が合わず、天下り問題を渡りに舟と 官界から追放されて、今は教育行政に鋭い批判をしています。彼がここに書いて いることは彼の文科省勤務三十年余りの要約とも言えるもです。この30年間、教 育行政は教育基本法の改悪、道徳教育の導入など激しく動きました。そのまった だ中にいた官僚トップとして考えたこと、苦しんだこと、身のこなし、それらが 点描されています。ちょっとした裏面史的な側面もあります。教育改革の狙いが いかに教師と児童生徒の主体性を削ぎ、型にはめ、政府が思う方向の人材を作ろ うとしているという解説は重くずしんと響くものがあります。学校をめぐる様々 な問題、例えば今騒がれている神戸市での教員間のいじめ問題、の背景を知る手 がかりもこの中にあるように思います。彼の主張の底に流れているのは、今の教 育がいかに歪んでいて、このままではまともな若者が育たない危機感です。

 M・ファクラー氏は日本滞在が長いジャーナリストで、現ニューヨークタイム ス東京支社長です。日米のジャーナリズムの比較から、日本のジャーナリズムの 問題点を抉り、改善に向けて様々な提案をしています。彼が繰り返し指摘するの は日本のジャーナリズムの手法が対象に密着しようとする余り、対象に呑み込ま れ、権力の走狗に堕していること、記者が組織の空気に縛られて自分の目を持て ず、かつメディアの現状に対する危機感の希薄さです。

 三人に共通するのは、これからのメデイアのあり方はもちろん、日本という国 の行方に対する深刻な危機感です。私たちは世の中に漠然と広がる空気を読みつ つ生きているところがあります。空気を読んで、摩擦を少なくして生きることが 賢いこと、そう価値観をどこか身につけています。だが、それは権力にとっては 狙い目。そういう空気の醸成に努めていけば、国民は思うとおりになる、そんな 自信を持っています。それがこの書の題にもなっている「同調圧力」です。それ は息苦しいまでに強まっています。結果として、権力を批判しない社会、裏返せ ば権力に忠実な社会が口を開けていて、今そこに呑み込まれるか、脱出できるか の瀬戸際にある.それを阻止するのは一人ひとりが声を出す勇気ということです。

なお、本著作は望月氏のノンフィクション「新聞記者」(角川新書)の映画化 に合わせて出版されたものです。 (2019-10-26)

                   投稿者 嶋田和也 隠居老人

※嶋田和也氏は、ホームページ「みんなの図書館」を読んで、「友の会」へ「書評」

 を投稿されました。今後も多くの方々の投稿を期待しています。ペンネームOK。

 投稿先  友の会事務局 kazutoshi2018_5331@yahoo.co.jp




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