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[2021年5月号] 手紙



「手紙」    書道家 菊川勝美(花蓉) 

現在、筆で字を書くことは、そんなに多くはないと思うが、昔の人は、日常的に使う生活であった為か、心の儘に書かれている。

中国の尺牘(せきとく)、日本の武将の書状、書簡は、特に素晴らしいと思う。

私、現在78才。父は32才で戦死。写真の中の父しか知らない。その父から母への筆跡の手紙が、この頃突然見つかったのです。どうして私が持っているかも全く覚えていないのに。1メートル程の長さです。微かな記憶は、幼い頃、長い紙をひらひらさせながら走りまわっていた事。あれがこれだったのかと、今は驚きとともに感動すら覚えたのです。想像するに、父が20代の頃の手紙であろう。           

何と素敵な書き出しでしょう、

「淋しきあまり便りいたします。」

「昨日別れても、今日になれば・・・・」

「輝かしい一家となる事が出来得るもの・・・」

「共に力を合わせて暮らす日が。。。」

最後に「純清なる妻へ」「夫便り」で終わるこの手紙。

真っ直ぐな父の言葉が嬉しくも切ない。何一つ果たせなかった父の無念さと共に、母の悲しみが、私のからだ全体に途方もない感情となって現れたのです。

でも、どうする事も出来ません。百年近くになると思われるこの一通の手紙は、沢山の事を教えてくれました。今は、私の宝物として保存する事と致しました。表装で茶色だった紙やシミを、水洗いしたとの事で随分白く、筆跡も鮮明になり、父の声が近くで聞こえそうな感じが不思議です。色褪せない墨の凄さは感動です。

書を愛する者の一人として、現在のスピード化した時代だからこそ、豊かな日本語を究極、筆に託す手紙丈は、卒意の書であるが故に素晴らしいと思うのです。

(編集部 注)尺牘(せきとく)・・・手紙のこと



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