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[2021年6月号] 本の広場

本の広場 「非正規雇用」って何が問題?        井藤和俊

世界的な新型コロナウイルスのパンデミックの最中、日本でやっとワクチン接種が始まっています。これで感染拡大が収拾されれば幸いですが、新型コロナウイルスは次々と変異し、感染力を強めていますので、予断を許しません。

 この1年半余りのコロナ禍で日本社会の問題点のひとつが明らかになりました。

非正規雇用の労働者が、コロナ禍による社会的矛盾に最も苦しめられていることです。

コロナ禍は、感染の脅威的拡大と重症化と共に、政府自治体の人流抑制、営業自粛要請などの抑制措置が、飲食業、観光業、旅行業など多くの産業分野に痛撃を加え、休業・廃業・倒産のリスクを高めています。政府自治体の応急的な救済措置にも関わらず、経済活動抑制のあおりで、非正規雇用の労働者は収入を減らされ、職を失っています。

 非正規雇用は、単に賃金が低いとか雇用が不安定ということが問題なのではありません。それは昔からあった問題です。今問題なのは、家計の補助的な非正規雇用ではなく、家計の主たる担い手が、非正規雇用になった場合の生活の厳しさです。またそれは世襲化される

リスクが大きいことが問題なのです。

 景気回復に、政府が巨額の財政出動することにより、株価が上昇し、金融資産を有する富裕層は、ますます豊かになる一方、年金生活者・給与所得者・自営業者は、日々生活の余裕を失いつつあります。収入・職を失えば、貧窮のどん底に陥ります。

 なぜそうなるのか?この疑問に答えるのが、橋本健二の「日本の階級社会」「<格差>と<階級>の戦後史」です。また斉藤幸平の「人新世の「資本論」」は、この疑問に、世界全体の経済の仕組みから解き明かしています。

 非正規雇用は単に労働条件の違い、雇用形態の違いではなくなってきているのです。

非正規雇用が、社会の仕組みとして、最下層アンダークラスの階級を形づくりつつあるとの指摘は、ゆるがせにはできません。私たちの子どもや孫たちの近未来を、そんな社会にしてはなりません。

 参考文献

新・日本の階級社会 橋本健二著 講談社新書(2018年発刊)¥900(税別以下同)

<格差>と<階級>の戦後史 橋本健二著 河出新書(2020年発刊) ¥1100

人新生の「資本論」 斎藤浩平著 集英社新書(2020年発刊) ¥1020

上級国民/下級国民 橘 玲著 小学館新書(2019年発刊) ¥820

日本社会のしくみ 小熊英二著 講談社現代新書(2019年発行) ¥1300

下流老人 藤田孝典著 朝日新書(2015年発行) ¥760 

下流社会 三浦 展著 光文社新書(2005年発行) ¥780

※「人新生の資本論」「上級国民/下級国民」「下流老人」「下流社会」は菊池市中央図書館にありますので、借りることができます。

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