[2022年3月号] 本の広場「墨子」

本の広場 「墨子 よみがえる」半藤一利著          井藤和俊

  

本の広場 「墨子 よみがえる」半藤一利著       井藤和俊

墨子は2500年前の戦国時代、孔子、孟子の時代(100年単位の年代差があります)の人です。その戦国乱世、秦・楚・斉・燕・韓・魏・趙の戦国七雄の時代に、墨子は「兼愛」「非攻」など十論(注 末尾に記載)と呼ばれる独自の思想哲学を持ち、和平を説き、実践した人です。

墨子は「兼愛」について、「おのれを愛するように人を愛し、おのれの父を愛するように人の父を愛し、おのれの国を愛するように人の国を愛せよ」と説きます。言い換えれば、おのれ(の属する共同体)のために、他(の共同体)と差異をつけるなという教えです。

半藤氏は「非戦」と呼んでいますが、墨子は「非攻」と言っています。墨子が「非攻」と言うのは、戦わないというのではなく、<侵略する国には、体をはって止めよと説き、侵略される国には、体を張って助けに行く>という意味です。実際に防御方法を教えて撃退しています。墨子は口舌の士ではないのです。

この書は、博覧強記の半藤氏らしく、時代は過去現代未来と飛び、その舞台も、中国日本アメリカと縦横無尽にかけめぐり、合間には編集者の若い女性に自説を開陳するという、実に半藤氏のこれまでの著書にない作風です。

これが実は2021年1月に亡くなった半藤氏の遺言なのでしょう。昭和史の大家らしい最後のメッセージです。

半藤氏のこの書は、今の国際情勢に照らして考えれば、含蓄深い墨子の教えです。 

(注)十論  尚賢(身分に関係なく能力による人材登用)尚同(それぞれの上位者に従うこと 墨家の組織論)兼愛(自他・親疎の区別なく人を愛する)非攻(強大国による侵略戦争の否定)節用(費用の節約 儒家の礼楽論を批判)節葬(埋葬の簡素化を主張 儒家の「厚葬久喪」を批判)天志(天の意思の存在を主張)明鬼(鬼神の存在を肯定)非楽(音楽がもたらす弊害を主張)非命(儒家の天命論を批判)…草野友子著「墨子」(角川ソフイア文庫)P15より引用               


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