[2022年4月号] 作品紹介「女のいない男たち」

更新日:4月1日

作品紹介 村上春樹 作 短編小説「女のいない男たち」     井藤和俊

濱口隆介監督の映画「ドライブ・

マイ・カー」が2021年第74回カンヌ国際映画祭、2022年第94回アカデミー賞(国際映画長編賞)を受賞して、日本でも全米でもロングランを続けています。熊本ではDenkikanで1月から上映されています。

短編小説「女のいない男たち」は、「ドライブ・マイ・カー」「イエスタデイ」「独立器官」「シエラザート」「木野」「女のいない男たち」の六編で構成されています。

映画「ドライブ・マイ・カー」は、小説「ドライブ・マイ・カー」とは、ストーリーは異なっていますが、モチーフは生かされており、その読みの深さと映画表現の卓抜さから、国際的な評価を得ています。なお映画批評としては、4月1日付け熊本日々新聞掲載の『「ドライブ・マイ・カー」心を揺さぶるのはなぜかー角田光代』をお読みください。

 村上春樹は、「まえがき」に、この本のモチーフは「女のいない男たち」だと述べていますが、ちょっとわかりにくい説明です。

 

 小説「ドライブ・マイ・カー」は、俳優の主人公「家福」が、女優の「妻 音」が子宮癌で死ぬ前、共演する若い男「高槻」としばしば寝ていたことを知っていましたが、何故妻が男と寝るのか、自分にどんな不服があるのか聞けないまま妻の死を看取ったことを、臨時のお抱え運転手「渡利みさき」に語ることから始まります。

 家福は、亡き妻の共演者の男「高槻」に接触し、亡き妻との関係を聞いて、亡き妻の心を知ろうとします。家福は、高槻の思いを知り、嫉妬心が消え、彼との縁が切れますが、亡き妻の心はわからぬままです。

 《「僕にとって何よりつらいのは」と家福は言った。「僕が彼女をー少なくともそのおそらくは大事な一部をー本当には理解できていなかった」ということなんだ。そして彼女が死んでしまった今、おそらくそれは永遠に理解されないままに終わってしまうだろう。深い海の底に沈められた小さな金庫みたいに。そのことを思うと胸が締めつけられる」》(文春文庫 P58)

「渡利みさき」は、家福の運転手を勤めながら、家福の心の迷い(亡き妻への問い)を知り、自分の過去を語って、家福の迷いに応えようとします。

 《「奥さんはその人に、心なんて惹かれていなかったんじゃないですか」とみさきはとても簡潔に言った。「だから寝たんです」・・・・「女の人にはそういうところがあるんす」・・・「そういうのって、病のようなものです。家福さん。考えてもどうなるものでもありません。私の父が私たちを捨てていったのも、母親が私をとことん痛めつけたのも、みんな病がやったことです。頭で考えても仕方ありません。こちらでやりくりして、吞み込んで、ただやっていくしかないんです」

「そして僕らはみんな演技する」「そういうことだと思います。多かれ少なかれ」》(文春文庫 P68~69)

 男には、女の心の演技の中までは覗けないというのが、村上春樹のモチーフだと思います。

短編集に収録されている残りの「イエスタデイ」「独立器官」「シエラザート」「木野」「女のいない男たち」の五編も、このモチーフで書いたと村上春樹は、「まえがき」で触れています。


 

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