古典への誘い「古今和歌集」 井藤和俊
古今和歌集は、万葉集から約150年のちに編纂された最古の勅撰和歌集です。
万葉集は、漢字の「万葉仮名」で書かれていますが、古今和歌集は、「仮名まじり文」です。
見比べてみましょう。
古今和歌集 小野小町
(仮名まじり文)花の色は うつりにけりな いたづらに 我が身 世にふる ながめせしまに
万葉集 額田王
(万葉仮名) 熟田津尓 船乗世武登 月待者 潮毛可奈比沼 今者許芸乞菜
(現代語訳文)熟田津(にきたつ)に船乗りせむと月待てば 潮もかなひぬ今は漕ぎ出でな
古今和歌集には、冒頭に序文(仮名序)があり、紀貫之が和歌論を述べ、歌集編纂の由来を記しています。
「やまと歌は、人の心を種として、万の言の葉とぞ成れりける。世の中に在る人、ことわざ繁きものなれば、心に思ふことを、見るもの聞くものにつけて、言ひ出せるなり。花に鳴く鶯、水にすむ蛙の声を聞けば、生きとし生けるもの、いづれか歌を詠まざりける。力をも入れずして、天地を動かし、目に見えぬ鬼神をもあはれと思はせ、男女の中をもやはらげ、猛きもののふの心をも慰むるは、歌なり。(以下略)」
この序を読んだ時、なるほど詩歌とはそういうものかと納得させられました。
古今和歌集には、春夏秋冬を詠む歌342首 恋歌360首 併せて702首、全体の
70%も詠われています。
古今和歌集の歌が雅びなのは、詠む人が上流階級で、かつこのような歌心をもって詠んでいたからなのでしょう。
誰もが聞いたことのある歌を幾つか選んでみました。
久方のひかりのどけき春の日にしづ心なく花のちるらむ 紀 友則
秋きぬと目にはさやかに見えねども風のをとにぞおどろかれぬる 藤原敏行朝臣
つひにゆく 道とはかねて 聞きしかど 昨日今日とは 思はざりしを 在原業平朝臣
世の中は かくこそありけれ 吹く風の 目に見ぬ人も 恋しかりけり 紀貫之
吹くからに 秋の草木の しをるれば むべ山風を 嵐といふらむ 文屋朝康
※この歌は、百人一首では、父の文屋康秀の歌とされている
日本の花鳥風月を愛する文化的土壌、価値観は、万葉集、古今和歌集の伝統で培われてきたのでしょう。
万葉集、古今和歌集を始めて読んで、日本の精神文化の根っ子に触れたような気がしました。山川草木皆神が宿るという土俗的信仰、アニミズムとも根を一にしているのかもしれません。
参考文献 古今和歌集 新日本古典文学大系 岩波書店
古今和歌集 新潮日本古典集成 新潮社
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