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[2022年6月号] エッセイ 「カタクリ花紀行」

 

  エッセイ カタクリ花紀行                         

 ~カタクリ群生地を訪ねて---秋田県仙北市~ 

           水野紀子                  

 遠い昔、絵本に癒された時期があった。そこで知ったカタクリという野草は、かつて球根から「かたくり粉」がつくられていたことに驚き、また春先に地を這うようにピンクの花を咲かせることも、印象に残った。そんな植物を現地で見てみたいという思いがかなったのは、勤務の時代を終える頃、今から10数年前のことだ。

 カタクリは、伸びてきた花冠の付け根のところでU字型に下を向き、長めの花びらを大きくそらせて開花する。花の時期は桜とほぼ同じ頃であるが、毎年の気候の違いとともに、土地の高低や斜面の向きとも関係するらしく、花の見頃に訪ねるには、地元の開花情報が欠かせない。

私が初めてカタクリの花に出会ったのは岡山県で、その後、新潟、岩手、兵庫などを訪ね、春先の北への旅を断続的に繰り返した。春の気配を感じる頃、開花情報をネットで探り、日常の都合とのヤリクリを考えて、行けるかどうか、行くとしたらいつどこへと、急にヤキモキしはじめる。カタクリの自生地は、だいたい里山から山間の地であるので、交通の便が厳しい。あまり時間をかけずにアクセスできることが、訪問地の必要条件になる。

 そうして今年出かけたのは、秋田県内陸部の仙北市。カタクリの花が林の中いっぱいに咲いている写真に引かれて、航空路を調べてみると、福岡から秋田への直行便がなく一旦あきらめたが、仙台ルートを見つけて出かけたのだった。


そこはカタクリが群生する栗林で、道を伝っていくつもの斜面が広がり、枝を落した木々の根元を埋めたカタクリは、一斉に開花していた。絨毯を敷きつめたような野草が、離れた斜面の稜線をピンクに彩っており、仙北市八津(ヤツ)のカタクリは、息をのむ美しさであった。

すごろくの「上がり」に急に到着した感があり、「振出し」に導いてくれた絵本の地はどこだったのか、今、気になっている。

  子どもにとって絵本の世界は、初めて世界の現実に向き合う入口です。絵本の読み聞かせは、幼い子どもには、大切な未来へのパスポートです。







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