top of page

[2026年11月号] 時代を透視した村上 龍

10 分前
読了時間: 3分

 時代を透視した村上 龍

   ~「限りなく透明に近いブルー」「半島を出よ」を読む~

「限りなく透明に近いブルー」

~先の見えない社会にドラッグ、セックス、暴力、ロックで背を向ける青年たちの姿~


本年令和8年10月17日に逝去した村上 

龍氏は、時代を透視した作家だったと思います。

数多い氏の作品で、私が読んだのは、「限りなく透明に近いブルー」「半島を出よ」のわずか2篇ですが、強烈な印象でした。

「限りなく透明に近いブルー」は、村上氏が24歳で、昭和51年群像新人文学賞及び芥川賞を受賞した作品です。(芥川賞全集第11巻 菊池市立図書館蔵書)

米軍横田基地の街を舞台に、ドラッグ、セックス、暴力、ロックの常軌を逸した刺激的な世界に耽溺し、しかし、孤独と虚無に沈んでいく青年の群像を描いています。

 この小説は、石原慎太郎の「太陽の季節」に比肩される新時代の青年の非力な胎動をえがいていて、その描写の荒々しさは、大人は顔をそむけたくなるような文章ですが、しかし、高度成長が終わり、30年もの長い停滞期に向かう時代に直面する青年の不安をよく捉えています。

 戦後民主主義が、連合赤軍事件に冷水を浴びせられ、先が見えなくなったところで、オーム真理教が現れたという時代の裏面を鋭く透視していたと思います。

この社会の底流は今も続いています。ドラッグで警察に補導される青少年は年々増加しています。

「半島を出よ」~福岡を日本を救ったのは、非行少年グループだった!~

 「半島を出よ」は、2005年(平成17年)の作品です。

半島とは朝鮮半島のことで、北朝鮮内の非公式軍事組織(高麗遠征軍)が、9人のコマンドを福岡市に侵入させ、博多市民を人質に、福岡市当局、警察組織などを脅迫し、先遣部隊として、500人の高麗遠征軍を飛行機で福岡市に着陸させます。計画では、その後12万人の後続部隊を上陸させ、福岡市の独立宣言を発表するというものです。

 福岡市民を人質にされるという未曾有の出来事で、

政府は方針が定まらず、福岡市を封鎖するというだけでした。

 行政職員警察職員は、市民が人質にされ、国など上からの指示がないため、高麗遠征軍の指示に従い、市民はパニックに陥ることはありませんでしたが、福岡市を守り、高麗遠征軍に抵抗するという発想も動きも皆無でした。

 かかる中で、福岡市内の非行少年グループが密かに、自分達を疎外している世間に一矢報いたいと、高麗遠征軍壊滅作戦を練り、地雷、爆薬、武器弾薬、装備品を調達します。

 12万人の高麗遠征軍の上陸前に、500名の高麗遠征軍先遣隊が駐留しているシーホークホテルを爆破します。高麗遠征軍先遣隊500名は壊滅し、12万人の後続高麗遠征軍は引き返します。

 この小説では、日本は、危機管理ができない、アメリカの指示なしには、なんにもできないことを露わにしています。

 しかし、村上 龍の凄いところは、北朝鮮ゲリラが、非正規軍隊として、北朝鮮国家の意思を離れて日本に侵攻し、国際政治、国内政治、国と自治体、それぞれの間隙を縫って、福岡に独立国を樹立せんとし、それを社会から疎外された非行少年グループが単独でゲリラを壊滅させたという小説の構想です。

 小説自体、全くのフイクションですが、ロシアとウクライナ、イスラエルとアラブ、アメリカとイランの争いに翻弄され、殺戮される庶民が、「非行少年グループ」として、争う双方に対して牙を研ぐ姿を、20年前の村上 龍は、透視しているように思います。

「半島を出よ」は、上下巻約1,000頁(幻冬舎2005年刊)の大長編で、野間文芸賞、毎日出版文化賞を受賞しています。なお、「半島を出よ」は作戦名です。菊池市立図書館蔵書

                       (投稿者 井藤和俊)


 


コメント


bottom of page