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[2020年4月号]読書サロン「韓国映画新進気鋭の星『ポンジュノ監督』」           投稿者 福井龍一



読書サロン韓国映画新進気鋭の星『ポンジュノ監督』」            投稿者 福井龍一

 毎夜レンタルで韓国映画のDVDを観る。味があり飽きない。東野作品の韓国映画化は「さまよう刃」「白夜行」「容疑者Xの献身」がある。東野圭吾氏は真摯に作られた格調高いと絶賛している。韓国映画のレベルは日本よりも高いようだ。僕もそう思う。そんな僕だから今回のポンジュノ監督の「パラサイト~半地下の家族」のアカデミー賞には驚いた。大変な喜びだった。フランスやアメリカでのポンジュノ監督作品の受賞歴。その感動の渦は韓国のみならず今では世界的に広がってきている。その作品の魅力はどこにあるのだろう。現代を生き抜くのはどんな世界に居ても辛くて苦しい。だがどんなときにも頑張って襲い来る敵と戦っていかねばならない。自分とのまた世間との戦いの中で人は助け合いながら生きていく。その過酷な運命を背負った人間に対する慈しみが根底に大きくあるのではなかろうか。社会的政治的な視線で彼の作品をとらえようとする人は多い。確かに作品の題材として社会悪を捉えている。だが、それが彼のドラマの本質ではなかろう。慈しみや愛の心情が笑いを伴い優しく語られている。

 

 彼は映画の世界に入るまでは漫画家志望だった。日本漫画の高いクオリテイに影響を受けたらしい。そのせいか登場人物の心理や置かれた状況に深くのめりこむ。

 それにもうひとつ注意すべき点として彼のドラマにはハッピーエンドがない。めでたしめでたしの完結が欠如している。不思議な余韻を残してドラマは殆ど未完結のまま終わる。これはどの脚本家も無し得ていない彼だけのエンデイングだ。


 ドラマにとって起承転結の結はドラマの出来不出来を決定する一番大事な要因になる。ああ面白かったという感動はほとんどエンデイングで決定される。だが彼の映画は例外なくすべて尻切れトンボで終わる。犯人が誰か分からず、また主人公が死んでしまったり、主人公の失意のうちに去ってしまう恋人など。その終わり方は観客を突然に奈落の底に落とす。観客は明るくなった劇場で当惑して途方に暮れてしまう。そもそも彼のドラマは常に観客の期待を裏切り、予期せぬハプニングでとんでもない展開が連続して起こる。翻弄されあたふた慌てふためいているうちに想像を超える顛末に落とし込まれる仕組みだ。これがボンジュノ監督のお得意とするドラマツルギーとなっている。

 

 おかげで彼の作品は何度観ても飽きない。だいたい人は結末を知るのが目的でドラマを見る。結末が分かればもう二度と観る気にはなれない。それがドラマの常。ドラマとはそんな物だ。だが結末が闇だともう一度見る羽目になる。見直していろいろそこで考える。すると最初の時に見過ごしていた細部や伏線に気付かされたりして、より深い面白さが見えてくる。このポンジュノ監督の終わり方は彼の観客への企みと視た。その企みに嵌まれば人はいつの間にかポンジュノ監督の虜になり、作品を次々と観たくなってしまう羽目になる。

 (参考)ポンジュノ監督作品

「パラサイト 半地下の家族」 第92回アカデミー賞受賞(作品賞ほか3部門)

「殺人の追憶」「母なる証明」「グエムル~漢江の怪物」「スノーピアサー」ほか多数 (編集部)

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