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[2025年12月号] 映画「国宝」

   映画「国宝」を観て          

                       投稿 井藤和俊

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 映画「国宝」(監督 李相日)を観て、鳥肌が立つ思いをしました。

若手俳優ふたりが、役者として舞を舞ったその舞そのものに魅了されましたし、それほどの舞を演じることができた俳優(吉沢亮と横浜流星)の演技力に感服しました。

 若手俳優ふたりの演技は、襲名を受けた歌舞伎の役者が見れば、まだまだ未熟者と思われることでしょう。しかし、歌舞伎を知らない私たちからすれば、歌舞伎に無縁の俳優が、わずか1・2年でプロの歌舞伎役者に見えるほどまでの舞を舞ったことに、驚嘆します。

 映画「国宝」のストーリーは、もともと原作「吉田修一 著『国宝』」」があり、おおむねそれをなぞったものですが、原作には映画にされなかった人物たちの人としての生きざまがあります。絵を見せる映画と字を読ませる本との違いは、あります。しかし、まだ、映画を観ていない、本を読んでいない方に、映画のストーリーの簡単な紹介をします。

 主人公立花喜久雄(吉沢 亮)は、任侠の家(立花一家)に生まれ、15歳で任侠の世界の抗争で父を失い、京都の歌舞伎の名門(花井流家元 花井半次郎)に引き取られ、その息子大垣俊介(横浜流星)と兄弟同様に育てられます。そこで二人とも、歌舞伎の演技の手ほどきを受け、舞台にも立つようになります。

 喜久雄は女形として観客を魅了するほどまでに成長し、俊輔は次第に喜久雄に嫉妬心をいだくようになります。ふたりを引き裂いたのは、病で倒れた半次郎(女形)の代役に、息子の俊輔ではなく、血筋のない喜久雄が選ばれたことです。俊輔は女と家を出て、全国を放浪しますが、芸を捨てきれず、花井にもどります。再び歌舞伎役者に戻った俊輔ですが、不運にも、不摂生がたたって、足を切断せざるを得なくなりますが、歌舞伎役者の血筋と誇りをもって、舞台に命をかけ、喜久雄と俊輔ふたりの藤娘の舞台を見事勤めあげます。

 映画では、ふたりが女形として藤娘を舞う華麗な踊りに目を奪われますが、小説では、そのふたりの間柄が転倒し、心がすれ違う心理描写が巧みで、胸が締め付けられる思いがしました。

 歌舞伎という地方にいる私たちにはなじみのない伝統芸能の優れた美的価値を教えてくれたことは、廃れ行く映画の価値を見直させられます。

TV業界も、この「国宝」(映画と小説の双方)から学ぶものがあるはずです。

 この程度の紹介では、意をつくせませんが、今後映画やテレビで上映される機会があれば、ぜひご覧ください。また、その間に、小説「国宝」上下2巻(作者 吉田修一)ですが、購入するなり、図書館で借りるなりして、ぜひお読みください。

  ※写真はAによる創作です

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