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[2023年6月号] 目録「菊池の戦後の歌人たち」

       蘇れ! 「菊池の戦後の歌人たち」

 暗き小屋に仔を待たしめて鋤くからに乳張る牛は空向きて吼ゆ  竹野美智代『麥馬車』

 このまま読んでも、牛を飼う農家の母牛のモーという仔牛を呼ぶ声が聞こえるのどかなひと時を思い起こさせます。

 しかし、私は、あえて別な見方をしてみました。

 嫁に来て、子姑たち7・8人を持たされて、自由な世界をあきらめて、農にいそしむ自分がいるという歌に、こじつけてみました。もちろん、竹野美智代が、小姑の面倒を見ていて、彼女は、中央歌壇へ出てこないかとの誘いにはのらなかったと知っておればこその勝手な解釈です。

 竹野美智代は、菊池で農の傍ら、農村歌人として、多くの歌人を育てました。

彼女は、師黒木傳松(若山牧水直系の弟子)の歌に人生をかけました。

 傳松の師があるからにためらわず農に嫁ぎし吾なりしかな

 竹野美智代は、高女時代の教師渡辺憲吉の指導のもと、東京で歌を学んだ山田とし子、及びハンセン病患者や服役者に短歌を教えた医師内田守人に指導を受けた佐々木かつえらとともに、十数人もの人々が歌集を自費出版するほどの短歌会に育てたのです。

 戦中、戦後の苦しい生活を三十一文字の歌に昇華させ、他人は知らず、己ひとり生きてきたという自負を歌集として残した人々を、私は感じとり、この目録をもって、彼らの魂を蘇らせたいと思いました。

 現実の彼ら彼女らは、私達の父親母親と同様な、あるいは長姉長兄と同様な、平々凡々たる人生を歩んできたのだろうと思います。しかし、その胸の内を、歌として残したことに敬服し、「このまま忘れさせてはならない。現代に蘇らせたい」との思いで、この目録を作りました。

 歌集は、菊池市立図書館に寄贈され、書架に収められています。貴重な郷土資料なので、貸し出しはされません。ぜひ、菊池市立図書館に足を運んでください。手にとって読んでください。私達の祖父母、父母、兄姉たちが歌として立ち現れてきます。(敬称 略)

                            投稿者 井藤和俊 

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