[2025年09月号] 本の紹介「保守と大東亜戦争」
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- 9月1日
- 読了時間: 4分
「戦後80年」を問う本の紹介
「保守と大東亜戦争」 集英社新書 著者 中島 岳志
投稿者 井藤和俊
中島氏は、保守を自称しますが、大東亜戦争はアジア解放のための正しい戦争だったとか、「南京虐殺」「従軍慰安婦問題」はなかったかのような、最近の保守論壇の風潮に対する危機感から、この本を書いています。
中島氏は、戦前の「保守」は、「超国家主義」とは相容れず、当時の天皇制、軍隊、戦争などに違和感を抱いていたこと、そして、戦後の「左翼」もまた戦前の「超国家主義」と双生児のような姿をしていると指摘しています。
中島氏は、「戦前保守」の論客の著書を丹念に読み込み、引用しています。
取り上げられた論客は「田中美知太郎」「竹山道雄」「池島信平」「福田恒存」「猪木正道」
「会田雄次」「山本七平」という錚々たる人達です。
以下、私が通読して理解した範囲で、誰がどの著書で語ったかは省略し、要約しました。
詳細は、ぜひ、原本「保守と大東亜戦争」をお読みいただきたい。菊池市立図書館の蔵書です。
(1)「戦前保守」と「超国家主義」は、異質なものである。
第一に、「戦前保守」と「超国家主義」との違いは、天皇制の捉え方です。「保守」は天皇は人間であり、天皇の地位は、国家の最上級の組織(機関)という「天皇機関説」ですが、「超国家主義」は、天皇は現人神で、国家意思の一元的体現者であるとの「天皇主権説」です。
第二に、「戦前保守」は、人間に対する懐疑的な見方を共有し、理性の万能性や無謬性(むびゅうせい)を疑います。異なる他者の意見との対話を促進し、協議による合意形成を進めることを目指します。
「超国家主義」は、急激なる改革、「革命」をめざしています。(例)2,26事件
第三に、「戦前保守」は、満州建国、日中戦争、太平洋戦争にも、懐疑的でした。しかし軍部官憲の厳しい思想・言論統制下で、その声は微弱で、国民には届いていません。
(2)「超国家主義」と「左翼」は同根である。
「超国家主義」は、ブルジョア階級打破、天皇親政を志向する革新主義者で、天皇制を絶対視し、批判する者を抑圧しました。
「左翼」もまた、ブルジョア階級打倒を志向する革命集団で、自己の理念を絶対視し、意見の異なる者を排除します。
(3)「戦後保守」の中から、戦前懐古的な「歴史修正主義」が生まれてきている。
「戦前保守」が、年齢的に論壇から消えて行ったあとに、戦争を体験していない世代が論壇に登場してきました。「戦前保守」と「戦後保守」の太平洋戦争をめぐる対立が生じ、論争がなされましたが、代表的なのは、林健太郎氏と中村 粂氏との論争です。
中村氏は、日中戦争、太平洋戦争は、中国、アメリカの策謀によるものだと指摘します。
日本が日露戦争でロシアから得た正当な権益を中国、アメリカが言いがかりをつけてきたものであり、盧溝橋事件などは、日本軍が罠にはめられた。
大東亜戦争は、欧米の植民地支配からの解放だった。戦後アジア諸国が独立を実現したのは、日本の戦争のおかげだ。
戦死した兵士や遺族にとって、戦争は間違いだったということは、死者を貶めることだ。
戦争が正義であったと評価してこそ、戦死者や遺族が浮かばれる。
これに対して、林氏は、他国の領土内に軍を進出させ、傀儡国をつくるのは、侵略以外の何物でもない。中国側が抵抗することは、当然のことである。
東南アジア諸国での戦争は、日本が、資源確保のため、欧米に替わる支配者になろうとしただけで、またその国の多くの住民を犠牲にした。
なお、東京裁判については、林氏は、連合国側も、日本が戦争に至った「超国家主義」と「保守」のせめぎ合いを、理解せず、「共同謀議」があったとして、判決を下したことに、疑念を表明していますが、「戦後保守」が、それを盾に、大東亜戦争肯定することにも、厳しく批判しています。
(4)「戦後保守」に生まれた「歴史修正主義」
「戦後左翼」は、今ほぼ壊滅状態です。ソ連の崩壊、中国の資本主義化を経て、「戦前左翼」の流れを汲む「社会党」は消滅し、共産党だけが孤塁を守っています。
今新たな思想潮流は「歴史修正主義」です。
太平洋戦争を大東亜戦争と呼び、「東京裁判」「南京事件」「従軍慰安婦」などについて、従来の定説を覆す考え方「歴史修正主義」が、論壇を形成しています。
本書の著者 中島 岳志氏は、「私たちは今一度、戦争をめぐる保守派の変遷を凝視し、本来の保守的人間観に立ち返って、大東亜戦争(およびそれに至ったプロセス、思想的背景)を吟味する必要があるのではないでしょうか。」と結んでいます。
中島氏は、日中戦争、太平洋戦争に至る大東亜戦争を、「歴史修正主義」で歪曲、美化するのではなく、また「非現実的な平和主義」でもない道を模索したいと言っているのでしょう。「戦後80年」をむかえ、私たちも一考に値する本だと考え紹介しました。


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