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[2025年10月号] 本の紹介「台湾有事 日本の選択」

本の紹介「台湾有事 日本の選択」 著者 田岡俊次 朝日新聞出版

                              紹介者 井藤和俊


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 熊本健軍駐屯地に「長射程ミサイル」が配備されると、今年7月に政府の発表がありました。

 名指しこそしていませんが、中国を仮想敵とし、台湾有事に備えて敵基地反撃能力をもつ長射程ミサイルの配備であることは、誰もが思うことです。

 しかし、どうして、台湾有事に日本の 自衛隊が参戦しなければならないのか、 私は理解できません。そもそも台湾有事って何なのでしょうか?

それがこの本を手にした理由です。

 台湾は中国の一部であり、中華人民共和国が、中国を代表する政府であることは、国連が認め、台湾は国連から脱退しています。アメリカも、日本も台湾が中国の一部であることを認め、台湾は国としては認めていないのです。なのに、なぜアメリカと中国が台湾を巡って争うのか?

これらの疑問に参考になると思われるのが、この本「台湾有事 日本の選択」です

 本書は「第1章 日本の参戦は条約と憲法に違反」にて、アメリカ・中国・台湾・日本の相互間の条約等法的関係を時系列でまとめています。

1972年2月ニクソン訪中毛沢東と会談「米中共同声明」(上海コミュニケ)

1972年9月田中角栄総理周恩来総理と会談「日中共同声明」

1978年8月「日中平和友好条約」

1979年1月鄧小平副主席訪米カーター大統領会談合意「米中国交正常化」

 以上の外交を経て、アメリカも日本も、中華人民共和国が中国を代表する政府であり、 台湾は、中国の領土の一部であることが合意されているのです。

1979年4月台湾関係法成立(アメリカ国内法)。

 アメリカ国内法である「台湾関係法」は「1979年以前の台湾との条約、協定を維持、台湾を外国の国家、政府と同等に扱う」武器の輸出、供与については「防御的な兵器を台湾に供給する」「アメリカは台湾人民を脅かすことに対抗しうる防衛力を維持する」との内容であり、中国との認識の相違を残したのです。これが後々の米中間の争いの火種になっていきました。

 日本はどうでしょうか?

 日本はアメリカと違って、台湾との経済的文化的な交流を維持しているだけで、台湾を国として扱うような政治的な関係は、断ったのです。日本も一部に台湾独立派を支持する政治家はいましたが、政府・議会とも、大多数は「日中平和友好条約」を支持していました。

 以上の経緯からすれば、アメリカは現状維持を求めているのであって、台湾独立を求めてはいませんでした。台湾問題は、中国の内政問題であって、アメリカも日本も、台湾問題に介入する余地はなかったのです。

 仮に台湾をめぐって、米中間の戦争になった場合(台湾有事)、日本がアメリカに協力して戦うことは、中国への内政干渉であり、「日中平和友好条約」違反となります。

(以上P17~20 アメリカも「異論を唱えない」による)

しかし、台湾のなかでも、親中派と独立志向派があり、台湾総統選挙や議会選挙で争っています。

台湾の独立志向派がアメリカの反中派と結びつき、台湾親中派と中国共産党と結びつき、 それぞれの勢力争いが表面化したのが、現状です。

 日本が米中間の争い、台湾有事に関わる法律上の根拠とされたのが、安倍内閣2014年7月「個別的自衛権行使」を「集団的自衛権行使容認」へ憲法解釈を変更した閣議決定であり、2015年9月安全保障関連法成立によるとされています。

 岸田内閣は2022年12月「安保三文書」(国家安全保障戦略・国家防衛戦略・防衛力整備計画)にて、「敵基地攻撃能力の保有」を明記しました。(以上 P25~26 矛盾だらけの「安保三文書」)

 以上引用した第1章で「台湾有事」の法的な経緯について、おおまかに把握することができます。

 

 本書は、このあと「第3章 米中台の戦力の実相」にて、非常に具体的に、米・中・台のそれぞれの軍備の現状、戦闘能力などについて、比較検討しています。

また、米中台のそれぞれが今日の状況に至る政治的な成り行きについて、「第2章 現状維持が本音」「第4章 つくられた危機」にて、詳しく述べられていますが、その解釈は、その他の台湾問題等の文献と併せて考えられることをお勧めします。

 ぜひ参照していただきたいのが「第5章 「台湾有事」―アメリカはどう動くのか 特別対談 緒方聡彦×田岡俊二」(P145~182)です。

 結論から言えば、アメリカは中国との戦争は望まず、日本は台湾防衛の最前線に立つこととなり、その結果は?本書をご覧になって、ご自分でお考え下さい。

                   


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