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[2025年11月号] 「保守と大東亜戦争」

本の紹介「保守と大東亜戦争」 中島岳志著(集英社新書)

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 8月参議院選挙で、与党の自民党、公明党が大敗し、過半数の議席を失い、参政党、国民党など新興政党が躍進し、立憲党は議席は維持したものの事実上の敗北を喫しました。

 自民党は、高市早苗氏を総裁に選んだものの、公明党に連立を拒否され、維新と手を組むことで、辛うじて与党の座を維持することとなりました。

自民党と公明党の25年にわたる連立が崩れたのは、高市早苗氏の「右翼的体質」を、公明党が嫌ったからだとの指摘があり、「保守」と「右翼」の違いが顕在化しました。

 この「保守」と「右翼」の違いを、早くから指摘していたのが、中島岳志氏の著書「保守と大東亜戦争」(集英社新書 2018年発行)です。

 中島岳志氏の『保守と大東亜戦争』は、戦中派保守論客の言葉を通じて「本来の保守」とは何かを問い直しています。

 本書で、著者は、第二次世界大戦を、アジア植民地解放の「聖戦」として肯定する現代の歴史修正主義者に対し、戦前・戦中の保守論客たちが軍国主義や超国家主義に批判的だった事実を述べ、田中美知太郎、竹山道雄、福田恒存、猪木正道、会田雄次、山本七平らの言論を検証し、彼らが戦争に対して抱いた違和感や批判を紹介しています。

 戦中の保守派はイデオロギーの万能性に批判的で、イデオロギーによる急進的改革である「戦争」に否定的だったと指摘します。保守とは、伝統や慣習を重んじ、他者との対話を通じて合意形成を目指す姿勢であり、イデオロギー至上主義とは異なるものとの認識です

 戦前の左翼思想も、イデオロギーで物事を判断し、大衆をそのイデオロギーで啓蒙せんとしたのは、戦前の超国家主義と同根であるとし、両者(左翼と軍部急進派)がブルジョア階級打倒や体制変革を志向する点で共通していたと論じます。

 本書は、保守思想の本質を、「イデオロギーの万能性を否認し、日常生活の歴史的積み重ねを重視し、急進的な変革よりも穏健な改良を望む思想」にあると指摘しています。

 戦後の保守勢力はアメリカに深く依存し、米ソ冷戦時代、自民、社会二大政党の時代は、対米自立を志向する保守派は極少数にとどまりました。

 では、戦後80年経過した今日、保守とは異なる「右翼」とは何でしょうか?

著者は、「大東亜戦争」を、植民地支配からの解放を目指す「聖戦」と位置付ける思想的政治的立場を「右翼」と呼んでいます。言い換えれば「歴史修正主義」が「保守」と「右翼」の境界・分岐点と見ることができます。

 著者の議論で特徴的なことは、「保守」に対する「革新」の意味が、今もメデイアで普通に使われているる「左派、左翼、リベラル」の意味ではなく、国語的な「現状打破・改革」の意味で使われていることです。だから、立憲民主党や共産党も、政府が進める政策に反対するかぎりでは、現状維持を望む「保守」なのです。「革新」勢力ではありません。

 著者中島岳志氏が言っているのは、ここまでです。今年の参議院選挙と高市早苗総理総裁誕生は、その後のことです。

 私見ですが、今年8月参議院選挙と高市総理総裁誕生は、中島岳志氏の「保守」「右翼」「革新」の使い分けをあてはめると、今後の政治地図が見えてくるように思います。

 「保守と大東亜戦争」中島岳志著 集英社新書 は、菊池市立中央図書館にあります。

読んでみてはいかがでしょうか?

                        紹介者 井藤和俊

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