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[2026年08月号]書評『生活史の方法』

岸政彦『生活史の方法』ちくま新書
岸政彦『生活史の方法』ちくま新書

岸政彦『生活史の方法』を読みました。


生活史とは、ひとりの人の人生の語りを聞き、それを書き残すことです。そう言うと、とても素朴で、誰にでもできそうに聞こえます。実際、この本も「生活史は誰にでもできる」と語ります。


けれど、読み進めていくと、それが決して簡単なことではないと分かります。

人の話を聞くということは、ただ質問をして、録音して、文字にすればよいというものではありません。何を聞くのか。何を聞かないのか。どこまで踏み込むのか。語られたことを、どのように書き、どのように残すのか。そこには、聞き手の責任や迷いがつねについて回ります。


この本の良さは、生活史を美しいものとしてだけ語らないところにあると思います。人の人生を聞くことには、面白さがあります。思いがけない話に出会い、その人の歩んできた時間の厚みに触れることができます。一方で、聞くことは相手の人生に踏み込むことでもあり、語りをこちらの都合で切り取ってしまう危うさもあります。

だからこそ、本書は「人の話をちゃんと聞く」とはどういうことかを、何度も考えさせてくれます。


この本を読みながら、菊池でも生活史を集めてみたいと思いました。

菊池には、長くこの土地で暮らしてきた人たちがいます。農業のこと、商店街のこと、学校のこと、祭りのこと、家族のこと、戦争や災害の記憶、そして何気ない日々のこと。大きな歴史としては残りにくいけれど、ひとりひとりの語りの中には、その土地で生きてきた時間が確かに残っています。


「菊池の歴史」と言うと、どうしても有名な人物や出来事に目が向きがちです。もちろんそれも大切です。でも、それだけでは見えてこない菊池もあるはずです。名前の残らない人たちの暮らしや記憶を聞き書きしていくことで、もう少し手触りのある「菊池」が見えてくるのではないかと思います。


『生活史の方法』は、そうした試みを始めるための背中を押してくれる一冊でした。

人の話を聞くこと。聞いた話を大切に書き残すこと。そして、それを誰かと共有すること。

いつか「菊池の生活史」のようなものを作ってみたい。そう思わせてくれる本でした。

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