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[2026年5月号]司書が企画から製本まで担う 図書館発の雑誌「KiCROSS TIMES」とは何か

菊池図書館に置かれている冊子「KiCROSS TIMES」をご存知でしょうか。

KiCROSS TIMESは、司書自身が企画から製本まで担っている「雑誌」です。

なぜ図書館で雑誌をつくるのか。この問いを手がかりに、副館長の長尾さんに話を伺いました。                             文責 杉本 翼


今回話を伺った菊池中央図書館副館長の長尾さん
今回話を伺った菊池中央図書館副館長の長尾さん

司書がすべて担うという制作体制

KiCROSS TIMESはもともと、「司書が本づくりの大変さを知り、本に敬意をもつ」ことを目的として始まった取り組みです。


そのような目的をもっているからこそ、KiCROSS TIMESは企画、取材、執筆、校正、デザイン、印刷、製本、配布に至るまで、すべての工程を司書自身が担っています。


制作には約25人の司書が関わり、各号ごとに6人前後のチームが編成されます。担当者はそれぞれテーマに応じて取材先を選び、連絡を取り、記事を書き、誌面を構成します。


本来であれば分業化されているはずの出版プロセス。 それをあえて自分たちで担うことで、本がどのように成立するのか、企画から流通までの構造を実践的に理解していきます。


KiCROSS TIMESは毎号約12ページですが、完成までに1〜2ヶ月を要します。 しかもこれは、通常の司書業務の傍らで行われています。

そうなると当然負担も小さくありません。

「担当になると『回ってきたか…』って感じ」だといいます。


それでも長尾さんはこう続けます。

「みんなそう言いながらも、やっぱりどこか楽しんで書いているのがわかるし、みんな何か伝えたいことを持っているんだな、本が好きな人なんだな、というのは感じます。」



読者を前提にしないという編集思想

もう一つ特徴的なのが、編集の前提です。


「実は、あまり読者のことは考えていないんです」

長尾さんはそう言います。


通常、媒体は読者を想定して設計されます。しかしKiCROSS TIMESでは、各司書の「書きたいこと」「知りたいこと」が出発点となっています。

そのため、誌面には統一された文体やフォーマットはありません。テーマは共有されていても、各記事の関心や表現は大きく異なります。


統一性がないことは、一見すると雑誌としての完成度を損なうとも考えられます。しかし実際には、司書それぞれの関心がそのまま現れた、多様な誌面を生み出しています。


例えば、KiCROSS TIMES vol.13を見てみましょう。

この号のテーマは「過去と未来をつなぐ 特集!デジタルアーカイブ」です。

しかし、誌面の構成は一様ではありません。


  • 菊池市デジタルアーカイブの歩き方 春夏秋冬

  • 菊池のマッチラベル(デジタルアーカイブで見るマッチ箱の世界)

  • 防災とアーカイブ

  • KDA(菊池デジタルアーカイブ)から広がる活動

  • D.A(デジタルアーカイブ)お茶の間劇場 菊呂須家の人々


「デジタルアーカイブ」という同じテーマでありながら、歴史資料、地域文化、防災、創作といった異なる切り口が並び、分散された関心によって誌面が構成されています。


長尾さんはKiCROSS TIMESの方針をこのようにも表現していました。

「いわゆる『図書だより』にはしない。雑誌にする」

この方針がKiCROSS TIMESの根底には流れています。


本原稿執筆時点で20冊のKiCROSS TIMESが発刊されています。 20冊目にして、ようやく雑誌らしくなってきた」

長尾さんの言葉から試行錯誤を重ねながら、雑誌が形になってきたことが伝わってきます。



図書館の役割をどう捉え直すか

この取り組みは、単に冊子制作にとどまりません。

当初は「司書が本づくりを理解すること」が目的でした。しかし、現在では「司書が地域に興味を持つこと」へと意味合いが広がっています。


その一例が、vol.14〜16に掲載されている「菊池市図書館友の会プレゼンツ」のコーナーです。このコーナーでは菊池市図書館友の会の会員である岩根美香さんが執筆を担当しています。

図書館利用者である市民が執筆に関わることで、誌面は図書館の内部に閉じず、外部との接点を持ち始めています。


KiCROSS TIMES vol.14 p19「菊池市図書館友の会プレゼンツ ホンの小さな出来事」
KiCROSS TIMES vol.14 p19「菊池市図書館友の会プレゼンツ ホンの小さな出来事」

さらに地域とのつながりがよく表れているのがKiCROSS TIMES vol.19の特集です。この号では「菊池の水めぐり」と題した特集が組まれています。


菊池各地の温泉や水源がマップになっていたり、菊池の井出の起源を探ったり。地域に根付いていなければ書けない内容です。


vol.19の井出特集。長尾さんもお気に入りだという。
vol.19の井出特集。長尾さんもお気に入りだという。

こうした地域固有のテーマを扱うことで、図書館の活動は蔵書の管理にとどまらず、地域との交流、地域の知の蓄積と発信へと広がっていきます。

KiCROSS TIMESのような取り組みは、図書館が地域に根付くための具体的な実践の一つと言えるのではないでしょうか。


司書による雑誌という試み

KiCROSS TIMESは、「図書館だより」のような一般的な広報誌ではありません。一方で、完成度の高い商業雑誌のように統一された媒体というわけでもありません。

その特徴を整理すると、次のようになります。


  • 制作のすべてを司書が担うこと

  • 書き手の関心を優先すること

  • 誌面の統一性をあえて求めないこと


こうした特徴は、一般的な出版の観点から見れば非効率であり、不安定な要素でもあります。

しかし同時に、それらはKiCROSS TIMESが成立している前提でもあります。


司書が自ら雑誌のすべての工程を担うという取り組みは、一般的な図書館広報とは大きく異なる取り組みです。

KiCROSS TIMESは、図書館という場における新しい実践のかたちを示しているのかもしれません。



入手方法

発行は300部限定。KiCROSS TIMESはキクロスをはじめ、菊池市内の図書館や郵便局や道の駅など、いくつかのお店で手に取ることができます。また、バックナンバーも含め、「きくち県域電子図書館」でも閲覧が可能です。


本づくりの過程に思いを巡らせながら読むと、その見え方は少し変わってくるかもしれません。ぜひ一度、手に取ってみてください。



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