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書評『彼岸の図書館』


青木真兵・海青子『彼岸の図書館』を読みました。

本書は、奈良県東吉野村に移り住んだ青木真兵さん・海青子さん夫妻が、自宅を「人文系私設図書館ルチャ・リブロ」として開いていくまでを綴った一冊です。


「移住」という言葉を聞くと、自然の中でのびのび暮らす、という明るいイメージを思い浮かべるかもしれません。けれど、この本に書かれているのは、そうしたきれいな物語だけではありません。都市での働き方や暮らし方にうまく馴染めず、体調を崩し、いったん逃げるようにして別の場所へ向かう。その切実さが、この本の出発点にあります。


だからこそ、ここで語られる「図書館」は、単に本が並んでいる場所ではありません。疲れた人が少し息をつける場所であり、世の中の当たり前から少し離れて、自分の感覚を取り戻す場所でもあります。


印象に残ったのは、本を読むことが、ただ知識を増やすこととしてではなく、生き方を少しずらすための営みとして描かれているところです。今いる場所で苦しくなったとき、すぐに強くなったり、うまく適応したりできるとは限りません。けれど、本を読み、人と話し、少し違う価値観に触れることで、「こちら側」だけが世界ではないと思えることがあります。


タイトルにある「彼岸」とは、遠く離れた特別な場所ではなく、今の暮らしのすぐ隣にある別の見方、別の呼吸の仕方のことなのかもしれません。


本屋や図書館は、何かを急いで解決してくれる場所ではありません。それでも、そこに本があり、誰かがいて、ふらっと立ち寄れる余白がある。そのことに、案外大きな意味があるのだと思います。


『彼岸の図書館』は、移住に関心がある人だけでなく、本のある場所や、これからの暮らし方について考えたい人に手に取ってほしい一冊です。

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